東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)114号 判決
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〔判決理由〕原告主張の請求原因は、要するに、保護基準は実際に行なわれるべき保護の程度を制約する効力を有しないから、原告の申請額が保護基準を上廻ることを理由としてなされた本件変更申請却下処分は違法であるということにつきる。
おもうに、憲法二五条一項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定しているが、この規定は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運用すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない。要保護者又は被保護者が国から生活保護を受けうる具体的権利は、憲法の右の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて、与えられたものというべきである(最高裁判所昭和四二年五月二四日大法廷判決、民集二一巻五号一〇四三頁参照)。ところで、生活保護法は、「この法律の定める要件」を満たす者は、「この法律による保護」を受けることができると規定し(二条参照)、その保護は、厚生大臣の設定する基準に基づいて行なうものとしている(八条一項参照)から、右の権利は、厚生大臣が最低限度の生活水準を維持するに足りると認め、設定した保護基準による保護を受けうることにあるものと解すべきである。しかして、かように、生活保護法が保護の実施を厚生大臣の定める基準によらしめることとしているのは、もともと、「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定要素を総合考量してはじめて決定できるものであるから、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断はいちおう、厚生大臣の合目的的判断に委ねる必要があることと、保護の迅速、適正かつ公平な実施を期する企図に出たものであるというべきである。
されば、これと異なる見解のもとに保護基準の法的効力を否定し、このことを前提として、本件変更申請却下処分の違法をいう原告の本訴請求は、所詮、理由がないものとして排斥を免がれない。
(渡部吉隆 南部吾 竹田穰)